江戸川大学では、3年次に所属したゼミナールで専門研究を行い、4年次には卒業論文を執筆します。各ゼミの指導教員は卒業論文のうち優秀な論文を優秀論文として推薦します。優秀論文発表会では、優秀論文を執筆した学生がプレゼンテーションを行い、最も優秀な論文が選考されます。

2023年度 優秀論文

最優秀論文
「グラフィティの境界性――千葉県木更津市の「おっさんシール」にみる芸術と違法の二項対立――」
遠山 海斗さん(川瀬ゼミ)

〈論文概要〉
千葉県木更津市に存在している正体不明のステッカー「おっさんシール」が生み出された背景について、グラフィティ文化の文脈に位置づけながら考察することを目的とした論文である。グラフィティの境界性や社会への影響、芸術的評価に焦点を当て、木更津市のグラフィティデータを通じて「おっさんシール」が地域社会へ及ぼす影響と芸術的評価について詳細に分析し、アートとしての位置づけと地域文化への関与について検討し論じた。

〈選考のポイント〉
分析が極めて精緻で、説得力ある論述が光る論文であった。木更津での知る人ぞ知る「おっさんシール」において、地域社会へ及ぼす影響は決して少なくなく、好き嫌いがある中でも芸術的にも評価されるか否かの論考、およびグラフィティ文化としての考察も非常に優れたものであった点が、最優秀にふさわしいと高く評価された。


優秀論文
「古民家の再生および地域イベントの実践を通した地方創生に対する取り組みについて――京都府綾部市をフィールドにした諸活動の記録と展望――」
古割 大地さん(崎本ゼミ)

〈論文概要〉
本論文は、友人とともに京都府綾部市の古民家の再生と利活用を目指して立ち上げたプロジェクトの計画と活動プロセス、および成果を中心にまとめたものである。一棟貸しレンタルスペースやアート展開催のプロセスと成果の記録を通し、日本の古民家には大きな可能性と様々な使い道があり、これを有効活用することで空き家問題や地方集落衰退に歯止めをかけられる点、地域密着型イベントが一定の効果を発揮しうるという点を見出した。 

〈選考のポイント〉
筆者自身が古民家再生という事業を立ち上げ、イベント企画および開催に携わるなど、実際の運営に携わっている優れた活動と貴重な記録であることから、大変興味深い内容となっている。論文のみならず、日本の古民家の可能性や使い道を見出し、古民家の有効活用で地域振興に貢献した活動実践についても非常に高く評価できる。


特別賞
「これからの鉄道ビジネスの在り方――阪神電気鉄道の事業から学ぶ強固な鉄道ビジネスの実現――」
榎本 一輝さん(大塚ゼミ)

〈論文概要〉
路線が短く競合相手が多く不利な状況に立たされているにもかかわらず、鉄道サービスの質が高い阪神電気鉄道を事例に、路線網・競合各社を含めた考察および自社での強みなどの視点から分析した上で、今後の鉄道経営の在り方について分析した。阪神電気鉄道だけではなく近畿日本鉄道や山陽電気鉄道などの競合他社を含めた現地フィールドワークを通じて、各列車における運行パターンや乗降および乗り換え時の人流などを踏まえて論じた。

〈選考のポイント〉
現在非常に関心の高い鉄道事業であるが、2020年以降のコロナ禍による各鉄道会社の業績不振や赤字ローカル線の廃止議論やその取り扱い、資金不足によるインシデントなど、厳しい現実が待ち受けている。本論文では、鉄道事業を再生していく中での内部補助の重要性を指摘し、非常に有為な内容となっている点が高く評価できる。