江戸川大学では、3年次に所属したゼミナールで専門研究を行い、4年次には卒業論文を執筆します。各ゼミの指導教員は卒業論文のうち優秀な論文を優秀論文として推薦します。優秀論文発表会では、優秀論文を執筆した学生がプレゼンテーションを行い、最も優秀な論文が選考されます。

2022年度 優秀論文

最優秀論文
「インフォーマルな贈与と顔の見える関係性――「おすそわけ」と「差し入れ」の比較調査から――」
沼崎 杏香さん(川瀬ゼミ)

〈論文概要〉
本研究は「おすそわけ」は何のために行われているのか、という問題意識のもと、「おすそわけ」や「差し入れ」というインフォーマルな贈与を比較し、フィールドワークに基づいて記録することで、これらがもたらす社会的な役割が何かを解き明かすことを目的とした。その結果、一見同じ行為のように見える「おすそわけ」と「差し入れ」はその関係の質が「顔の見える関係」と「顔の見えない関係」であることが明らかとなった。

〈選考のポイント〉
社会通念上、余り顧みられることのない「おすそわけ」と「差し入れ」の何気ない違いを放置せず、レヴィ=ストロースの真正性の概念から精緻に研究されたことは高く評価できる。また、「『おすそわけ』が地味にわずらわしかったのは、『顔の見える関係』であるからこそだった」との結論は非常にユニークであると同時に正鵠を射た見解であり、日本独特の社会の一面を捉えた優れた研究である。


優秀論文
「東金御成街道の近代の変化について――船橋から習志野地域の街道開発史――」
山本祥司さん(関根ゼミ)

〈論文概要〉
本研究では、東金御成街道の近世から現代までの開発による変化の過程を整理分析し、文化的景観が街道沿いにどの程度残されているのかについて特定した。その結果、商業地域では過去の景観がほとんど残っておらず、商業地から大きく離れたエリアでは文化的景観が残されていたことから、都市計画における文化的景観の消滅による市民の地元愛着の希薄化の可能性を危惧し、文化的景観の復興、保護が必要であるとの結論に達した。 

〈選考のポイント〉
豊富な文献や古地図、古写真などを用いた緻密な先行研究によって、東金御成街道の過去と現在の姿を再現した、真摯な研究姿勢には頭が下がる。研究対象地における明治から平成の都市計画を丹念にたどり、詳細に記述されている。江戸時代から続く東金御成街道の都市化の歴史的経緯に基づき、過度の都市化は地元民の愛着を毀損するため、文化的景観の復興、保護が必要である、という結論導出は非常に説得力があった。


特別賞
「「担降り」のロジック――ジャニーズファンの応援行動とその転向をめぐる人類学的研究――」
長峰あすかさん(川瀬ゼミ)

〈論文概要〉
「担降り」とは、応援行動に注力したアイドルなどの応援対象者を他の者に変更するため応援の「担当」をやめることを指す、ジャニーズ事務所所属アイドルのファンによる造語である。本研究では「担降り」を経験したジャニーズファンへのインタビュー調査や中国のアイドルファンおよび芸能界規制強化の事例の検討に基づき、応援行動と転向の論理を明らかにするとともに、ファンの応援行動の比較と、ファンをやめる際のロジックの解明を試みた。その結果、「担降り」のメカニズムは、より好きになった応援対象者の登場や、「担当」の私生活優先などの内的要因であることが明らかになった。

〈選考のポイント〉
ジャニーズファンの応援行動とその転向という、自身の関心に準えた事項について、文化人類学的に格調の高い論文に仕立て上げられた、筆力と熱意に感嘆するとともに敬意を表したい。関心の無いものからみると、意味不明なファンダムの世界にも一定の普遍性があることが理解できたと同時に、「担降り」にみるファンダムの転換による代位や熱気冷却についても客観的に触れられており、研究成果としても高く評価できる。