江戸川大学では、3年次に所属したゼミナールで専門研究を行い、4年次には卒業論文を執筆します。各ゼミの指導教員は卒業論文のうち優秀な論文を優秀論文として推薦します。優秀論文発表会では、優秀論文を執筆した学生がプレゼンテーションを行い、最も優秀な論文が選考されます。

2022年度優秀論文

「絵本がもたらす子どもへの影響と効果的な読み方」
香取 唯さん

【論文概要】
国や時代を超えて愛されている絵本が存在している。幼児教育において重要な役割を担っている「絵本」は子どもの精神発達にどのような役割を果たしているのか。
保育における読み聞かせの役割に関して、事例を挙げながら検討し、効果的な読み聞かせの技能に関しては、従来の実践的研究を調査し、読み聞かせの際の「情緒性の有無」に着目すると、物語理解における読み聞かせ方法の違いの差は見られないが、心情理解においてはその差が現れ、大げさな演じ分けにおいてより高い理解が示されるという結果となり、聞き手や読み手の状況や目標によって適する方法を選ぶことが必要であると結論付けた。

【選考のポイント】
研究目的の明確性、研究のオリジナリティ、結論等の明確性、有用性、論文として用語の規定、使用の適切さは及第であり、こども学科のディプロマポリシーの観点から見ると、子どもの成長過程を見据え健全な成長を導くために、必要な知識を身につけていること。子ども、家庭、学校、地域社会、職域その他の社会的関係性を踏まえていること。相互に協力しつつ地域の子ども・子育て支援に貢献し続けることの大切さを理解していること。など十分に備わっていることがポイントとなった。


「大学生のバレーボール選手における競技意欲低下に関する研究」
草野 美桜さん

【論文概要】
4年間バレーボール部に所属し、現場での活動で感じた心理的な問題点を取り上げ、「大学生のバレーボール選手における意欲の低下」をテーマに書かれた論文である。アンケート調査を用いて、意欲の低下がなぜ起こるのか、その要因について検討を行った。競技への動機付けは、監督や部員との関連性などの外的要因に多くを頼るのではなく、自身が競技を行っている意義や価値などの内的要因が重要であるという結果となり、アスリート学生に対して貴重な示唆となっている。

【選考のポイント】
現場で生じた疑問点を解決するため、アンケート調査をもとに、選手の意欲低下の原因について分析を行い、大学生アスリートのあり方について考察で示した点において、実践研究として高く評価できる。


「生き物の飼育経験と苦手意識調査 要因と園での飼育希望の影響について」
小山 信志さん

【論文概要】
本研究は、保育者の昆虫類等への苦手意識が、子どもが生き物に触れ合う経験の場を狭めているのではないかという仮説のもとに質問紙調査を実施した。保育者養成校の学生と現職の保育者を対象に調査をした結果、両者ともに幼少期から生き物を飼育した経験の有無と生き物に触れることができるか否かが関係していた。このことから幼少期から生き物に触れる経験の重要性が明らかとなった。さらに、子どもが生き物と触れ合う経験を広げるために、保育者養成校の段階から学生が生き物と触れ合う経験を自ら進んですることの大切さが示唆された。

【選考のポイント】
本研究は、子どもが生き物と触れ合う経験の機会が減少している現代社会への警鐘を鳴らす内容となっている。子どもがいのちの尊さを知るうえで、昆虫類は比較的身近な生き物であるが、苦手意識を持つ保育者も多い。このような現状に問題意識を持ち、取り組んだ意欲的な卒業論文である。


「ベビーカーの向きによる乳児の反応の違い」
佐藤 唯香さん

【論文概要】
ベビーカーの内向きと外向きの差によって、乳児の反応が異なるのか実験検証した論文である。3名の乳児と母親を対象に、外向きと内向きのベビーカーで散歩をしている最中の乳児の顔の撮影を行った。その結果、外向き時には子どもは外の景色に興味を持って車や人に視線を向けており、内向き時には外にも興味を持ちつつ母親を見る回数が外向き時より多くなった。予想以上に乳児は外の世界への興味があり、反応には個人差も見られることが実験から明らかにされた。

【選考のポイント】
少ない人数ながらも実際に乳児と母親を対象とした実験を行い、仮説を立てて検証する論文としてまとめ上げた点が評価できる。映像を細かく分析し、視線の向け方や体の動きに着目して、内向きと外向き時の差について明らかにすることができた。発達の理論と突き合わせながら、月齢による差や個人差に言及し、深い考察ができた。


「こどもホスピス」における利用者支援と今後の発展についての考察
佐藤 凜花さん

【論文概要】
「こどもホスピス」という、生命が脅かされた状態にある子どもとその家族が利用することが出来る施設に着目し、利用者の支援の具体的な在り方や今後についての考察を行った論文である。「横浜こどもホスピス~うみとそらのおうち」を訪問し、施設の見学と理事長、保育士の 2 名にインタビューを行った。インタビューの回答から、「こどもホスピス」の理解の不足からくる問題や利用者とその家族に寄り添う具体的な活動や考え方が明らかにされた。「こどもホスピス」が地域につながる施設となることが理想的であるという考えがまとめられた。

【選考のポイント】
「こどもホスピス」という日本において未だ広がりの少ない施設に着目し、施設の重要性について考察し、社会的な提言につながる論文となった。実際に施設を訪れ、インタビューを行い、分析ができた点が評価できる。子どもや家族の支援について、視野を広げて考えることができ、今後に活かされる内容である。


「ベビースイミングを中心とした乳幼児の水泳指導に関する研究」
猿田 彩水さん

【論文概要】
本研究は、乳幼児期における水泳の効果、有効な指導法に着目した研究である。乳幼児期における水泳の効果について調査した結果、心肺機能、皮膚、自律神経系の強化といった生理的な有効性だけでなく、親子でスキンシップをとることによる愛着形成、自己肯定感の促進など、精神的な有効性も確認することができた。また、ベビースイミングからキッズスイミングに関する具体的な指導法についても検討しており、系統的な指導法の重要性について考察を行った。

【選考のポイント】
乳幼児期の水泳については実践希望者はいるものの、その有効性や指導法については広く知られているとは言い難い。そのような現状に問題意識をもち、自身の経験を含めながら乳幼児期の水泳の効果、具体的な指導法についてまとめ、今後の乳幼児期における水泳に関する課題を提示できたことは評価に値する。


社会背景と思春期の心理変化からみる「借りぐらしのアリエッティ」
田口 菜桜さん

【論文概要】
ジブリ映画「借りぐらしのアリエッティ」(2010年公開)を、原作児童文学(1952年、イギリス)との比較をとおして考えた。映画は必ずしも高い評価を得たわけではなく、批判も多かった。その理由と評価の妥当性を考えるなかで、企画・脚本を手がけた宮崎駿の現代社会の見方、登場人物を思春期に設定することで《生きる勇気》というメッセージを観るものに伝えていることを明らかにし、いまこそ見るべき映画であることを論じた。

【選考のポイント】
映画そのものの読解のために、原作との比較・先行論文の分析・ネットでの映画評を分類、主題歌の分析・他のジブリ映画との共通点など多角的に丁寧に論じていった。そのなかで原作との共通点としての社会背景や、相違点である思春期に問題を取りあげ、〈借り〉ることの現代的・人間的意味について考えさせられるものになっている。


「あまんきみこ『きつねのおきゃくさま』から読み解く読解力」
豊田 賢一さん

【論文概要】
小学校2年生国語教科書にも掲載されている児童文学、あまんきみこ「きつねのおきゃくさま」を場面・時間を踏まえ、登場人物の《言葉の力》に着目し読解した。さらに先行研究を整理し、その争点を読解とアンケートをとおして再考した。そのなかでも特に、教育現場で指摘された誤読の問題を取りあげ、指導書に示された「指導内容」「目標」を年代別に整理することなどをとおして、その先にある国語教育・読解の問題を明らかにした。

【選考のポイント】
一つの作品を《言葉》にこだわり分析した。作品自体はもちろん、参考文献を読み分析することで作品の問題だけではなく、国語教育(読解)の問題へと関心を広げている。大学生へのアンケートは、国語教材の影響の大きさと読解の難しさを明らかにし、幼児からの《言葉》・教育の大切さと問題点をあぶり出す論となっている。


「保育現場における外国にルーツを持つ子どもの受け入れの現状と課題」
平沢 真由さん

【論文概要】
本研究は、外国にルーツを持つ子どもの保育に携わった経験がある保育者にインタビュー調査を行い、そこから保育の現状と課題を明らかにした。調査結果から、現状として保育者はその子どもの文化を尊重する形で、保育の様々な配慮を行っていること、さらに外国にルーツを持つということをその子どもの個性のひとつとしてとらえていることが分かった。次に課題として、保育者は保護者とのコミュニケーションにおいて、通訳・翻訳機器の活用や多言語化した資料の作成等に課題を抱えていることが明らかとなった。

【選考のポイント】
まず、現代の保育の課題を敏感にキャッチし、テーマとして取り上げた点が評価できる。さらに5名へのインタビュー調査を行い、膨大な質的データを丁寧に読み解き、まとめ上げた点が評価できる。本研究は、保育者へのインタビュー調査をもとに、外国にルーツを持つ子どもと保護者の当事者の視点から保育を考察した優れた質的研究である。


「海外に在る日本人学校の教育実践とその課題」
吉波 里峰さん

【論文概要】
海外の日本人学校の特徴や役割、及び日本人学校が抱える課題について、教育実態の分析を通して検討した論文である。はじめに日本人学校の歴史的変遷を述べた上で、筆者自身のシンガポールでの日本人学校在学時の経験から教育活動の一貫性やその役割を分析し、また世界各国に存在する日本人学校の現況情報及び資料を収集し教育実践を取り上げる中で、日本人学校が海外に存在する意義を言及している。

【選考のポイント】
筆者自身の経験に基づいた日本人学校の実態から捉えられる日本人学校の現代課題について検討した論文である。日本人学校の果たす役割や意義、位置づけを考察した視点、またそれだけに留まらず現代の学校教育そのものについて見つめ直し指摘した点、こうした点が独創性に富み評価できるものである。