江戸川大学では、3年次に所属したゼミナールで専門研究を行い、4年次には卒業論文を執筆します。各ゼミの指導教員は卒業論文のうち優秀な論文を優秀論文として推薦します。優秀論文発表会では、優秀論文を執筆した学生がプレゼンテーションを行い、最も優秀な論文が選考されます。

2020年度優秀論文

「おもちゃの思い出に関する研究―愛されるおもちゃの特徴と傾向の考察―」
加瀬 妃さん

【論文概要】
さまざまな種類のおもちゃの意義を知ることを目的とし、おもちゃの歴史や役割について先行研究を調べた。また、愛されるおもちゃは、長い期間、大人になっても遊びたいと思うだろうと予測し、現在の大学生が子どもの頃に遊んだおもちゃの思い出について質問紙調査を行った。結果、その時代にヒットしたおもちゃは大人になっても遊びたいと考えられており、大人の趣味としてのおもちゃの役割が見出された。多様な遊び方ができるおもちゃは長い期間遊ばれており、おもちゃの特徴による違いが分かった。

【選考のポイント】
おもちゃの歴史を丁寧に調べ、おもちゃとはどういうものなのか、理解を深めることができた。また、質問紙調査では、さまざまな種類のおもちゃについて比較し、共通点や差異を見つけ出した。調査で得られたエピソードからも、おもちゃを通した遊びについて具体的にイメージし、考察することができた。


「なぜ恥ずかしい下品な言葉は子どもの心を掴むのか~絵本の世界をとおしての一考察~」
栗原 明日香さん

【論文概要】
絵本の読み聞かせで、うんち・おしり・おならなどの言葉に子ども達は大きな反応を示す。なぜだろう。3年生の保育実習のときの問いが卒業研究の動機である。乳幼児期の身体・言葉の発達を専門書籍に基いて整理しつつ、おならやおしり系絵本を読み込み、キーワードや絵の特長を考察した。幼稚園実習で、うんち絵本の読み聞かせやエプロンシアターを行い、指導と省察の実践研究を深めた。

【選考のポイント】
子ども達に絵本読み聞かせしながら感じた自分なりの疑問を出発点に、発達理論と実践を組み合わせて考察し、幼児にとっての絵本の価値を探求したところに本研究の独自性がある。子どもは絵本で笑うというコミュニケーションを通して大人の反応を確かめながら言葉を獲得していく。そのプロセスが本論文で明らかになった。力作である。


「道徳性の内在化について」
五嶋 苗希さん

【論文概要】
子どもの利他的な行動や、善悪の判断といった道徳性の発達に関する研究知見は多くありますが、それを具体的に教育場面でどのように活かすかについては、いまだ議論の段階です。本研究は、その議論の段階にある教授方法に焦点を当てた先駆的な内容です。教育現場で道徳教育に携わっている教員へのアンケートとインタビューから道徳教育への意識と態度を明らかにし、その結果から子どもの心理に定着する教授方法を考察しました。

【選考のポイント】
「道徳教育でいじめはいけないと教えられているにも関わらず、いじめがなくならないのはなぜか」という小学校の頃から温めていた自らの問いに、熱心に取り組みました。幼稚園教諭となる自分の将来を見据えて、教育者の視点からの調査研究を行い自らの実践につなげようとした点、さらに質的データを簡潔にまとめた点を評価しました。


「子ども食堂と母子世帯の繋がりに関する一考察 」
小宮 菜里奈さん

【論文概要】
母子世帯に「孤食」が多いのでないかという問題意識から、孤食を防ぐ取組みの一つとして子ども食堂と母子世帯の繋がりに着目し、子ども食堂が母子世帯の「孤食」を防ぐことにどの程度関わっているのかを明らかにすることを目的としている。研究成果として、母子世帯に特化していない子ども食堂では、母子世帯を把握できないため、母子世帯には利用しづらいことがわかり、子ども食堂と母子世帯の繋がりは弱いことを明らかにした。

【選考のポイント】
先行研究をもとに、母子世帯が抱える子どもの貧困問題から孤食・学習の課題と子ども食堂の活動を関連づけた。その上で、コロナ禍にあり、子ども食堂の活動が制限される中、ボランティア体験、子ども食堂へのアンケート調査、子ども食堂代表者へのインタビュー調査により実証的に研究を進めることができたことは評価できる。


「江戸川大学男女バスケットボール部の栄養についての認識と食生活の実態」
土屋 茉寛さん

【論文概要】
江戸川大学男女バスケットボール部の栄養についての認識と食生活の実態について、本学男女バスケットボール部の選手を対象として行われた。本人が4年間の選手としての活動を振り返り、練習以外の要素がパフォーマンスに大きな影響を与えていると感じたことから取り組んだテーマであり、今後のチーム強化活動に生かすことを目的として書かれた実践的な論文である。

選考のポイント】
男女バスケットボール部が競技力をさらに向上させるために、現場で生じている課題の1つについて明らかにしようとした点は、大変評価できる。また、考察において、現在置かれている環境とアンケート調査結果を重ね合わせて検討を行なっている点は所属していた本人にしかできないことであり貴重な論文となっている。


「ドラムサークルの可能性を探る」
寺岡 淳広さん

【論文概要】
ドラムサークルの歴史や変遷を調べ、実践の分析を通してドラムサークルの可能性、特にファシリテーターの役割について提言した論文です。ドラムサークルは年代や障害の有無に関係なく誰もが参加可能な活動であり、音楽面だけでなく他者意識やコミュニケーション力の向上にも大きな効果があることを明らかにするとともに、ファシリテーターにはアーサー・ハルの唱えた「全体を聴く力」と「全体を観る力」が必要で、しかも自らのパフォーマンスが出すぎないように意識することが重要であるとまとめました。

【選考のポイント】
文献だけでなく、幼小で実際に行われた4つの実践報告や映像をていねいに分析し、成果と課題を明らかにしました。また、都市での孤立化を防ぎ市民が音楽でまとまるように指導者養成を行った柏市と、専門家として音楽活動を行いアメリカでの学びを活かして幅広い音楽の楽しみ方を飛騨から世界へ広げている2名のファシリテーターのインタビューを行い、子どもだけでなく地域市民を活性化する活動の意義を明らかにしたことがすばらしいと感じています。