江戸川大学では、3年次に所属したゼミナールで専門研究を行い、4年次には卒業論文を執筆します。各ゼミの指導教員は卒業論文のうち優秀な論文を優秀論文として推薦します。優秀論文発表会では、優秀論文を執筆した学生がプレゼンテーションを行い、最も優秀な論文が選考されます。

2023年度 優秀論文

最優秀 長戸 夏美さん 
「イスラム教徒におけるラマダン前後での睡眠の変化:系統的レビュー」


<論文概要>
ラマダンはイスラム暦の9月の名称であり、イスラム教徒はこの約1か月の期間、日の出から日没までの時間に飲食を断つことが義務付けられています。また、ラマダンの断食は斎戒(飲食や行動を慎んで、心身を清めること)という訳語が用いられるように、日中の飲食を断つだけでなく嗜好品を慎んだり言動に気をつけたりすることも含まれます。イスラム教徒にとってラマダンは自制心や忍耐力を養い、信仰心をより強くする宗教行事期間です。
ラマダン中の生活習慣は、その他の時期と大きく異なることから、ラマダンが心身の健康に及ぼす影響について様々な検討が行われてきました。特に、ラマダンの時期には、食事のタイミングや就寝起床の習慣が大きく変わることから、睡眠健康に与える影響についてこれまで数多く研究されています。さらに、近年では系統的レビューもいくつか報告されており、ラマダンによる「睡眠時間の短縮」や「日中の過剰な眠気の増加」が報告されています。しかしながら、系統的レビューの対象になった論文には、アスリートや特定の疾患を要する集団を母集団とした研究も含まれており、このことが結論に影響を与えている可能性が考えられました。そこで、本研究では、イスラム教徒を対象としてラマダン前後で睡眠を評価した調査研究を抽出し、アスリートや特定の疾患の患者に限局された研究を除外した上で、メタ分析による統合を行いました。その結果、「ラマダン前後で睡眠時間、日中の眠気、睡眠の質に統計学的に意味のある違いは見出されません」でした。この研究成果は、ラマダンという宗教行事とイスラム教徒の睡眠健康との関連を理解する上で新たな資料を提供するものであると考えられます。

<選考のポイント>
本研究は睡眠行動医学に文化的な視点を取り入れた研究として興味深いものである点が高く評価されました。また、先行研究の丁寧なクリティークに基づくリサーチクエスチョンの設定や多角的な考察、イスラム教やラマダンについて初めて知ることの多い聴衆にも内容や意義がわかりやすいプレゼンテーションも高く評価されました。

「イスラム教徒におけるラマダン前後での睡眠の変化:系統的レビュー」要約

二位 中山 弘菜さん
「好悪判断と美醜判断の違いが選択的注意機能に及ぼす影響--顔ストループ課題を用いた検討--」


<論文概要>
本研究は、ある対象に対する好悪判断と美醜判断の間に、情報処理のエネルギー(処理資源)の使用量が異なるかを実験的に検討したものです。顔写真を刺激とし、その顔写真の上下に性別の単語を同時に呈示します。参加者は上下に呈示される性別の単語を無視しながら、顔写真の性別判断を求められます。この課題成績によって、参加者が性別の単語を無視できているか(選択的注意機能)を測定します。この課題と同時に、顔写真に対する好悪判断あるいは美醜判断を参加者に課し、好悪判断中の選択的注意機能と美醜判断中の選択的注意機能の違いに着目しました。その結果、好悪判断時と美醜判断時において選択的注意機能の変動は認められず、処理資源の利用量の違いは示されませんでした。

<選考のポイント>
「美しいと感じること」や「好きと感じること」について、認知機能の側面から考え、処理資源に着目し、実験的に測定しようとした研究デザインが評価されました。また、本研究の限界点を示し、丁寧に考察を行った点も評価できました。

「好悪判断と美醜判断の違いが選択的注意機能に及ぼす影響--顔ストループ課題を用いた検討--」要約

三位 森田 夏未さん
「パレイドリア反応と不思議現象への態度との関連」


<論文概要>
これまでの研究では顔のようにみえる刺激(顔様刺激)の処理の傾向は、超常現象体験と関連している事が示唆されています。この研究では、顔様刺激の処理の傾向をWeb上での認知課題を実施する事で刺激の呈示時間を厳密に統制したうえで測定し、それと不思議現象(超常現象)信奉との関連を検討しています。その結果、質問紙で測定された不思議現象信奉と認知課題を用いて測定された顔様刺激の処理傾向との間に有意な関連は認められませんでした。

<選考のポイント>
Web上での認知課題を実施する事で、客観的に顔様刺激の処理傾向を測定しようとした試みが高く評価されました。また、本研究は、同研究室の先輩(過去のゼミ生)が行った研究を、新しい技術を用いることでより測定精度を高めて再検討したものですが、発表会ではその学術的価値が認められたものと思います。

「パレイドリア反応と不思議現象への態度との関連」要約