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2025.12.18

「文化人類学概論」で井上淳生先生を招き特別講義を実施

井上淳生先生(茨城大学人文社会科学部人間文化学科)

社会学部現代社会学科の川瀬由高准教授(専門分野:文化人類学)が担当する科目「文化人類学概論」において、12月15日(月)に茨城大学人文社会科学部人間文化学科講師の井上淳生先生をお招きし、特別講義「「私」の文化人類学 ―異文化・違和感・フィールドワーク― 」を実施しました。

文化人類学は、綿密なフィールドワークを通して、人間の生き方の多様性を理解することを目指す学問です。本科目では例年、個々の現場(フィールド)の事情に精通した、様々な人類学者をゲストスピーカーとして招き、学生にこの学問の幅広さと面白さを体感する機会としています。今回お招きした井上先生は、大学入学を機に始めた社交ダンスの世界でプロとして働くなかで文化人類学を志されたというご経歴を持つ、全国的にも珍しい「社交ダンスの人類学」の専門家です。

講義では、井上先生ご自身の社交ダンスでの経験を通して、文化人類学とは何かが語られました。社交ダンスはスポーツとして勝ち負けがあり、社交の場として相手を「選び、誘う」文化があります。しかし、憧れて入った世界である一方、「自分はちゃんとやっている」という意識がいつのまにか他者を見下す感覚につながったり、異なるやり方をする人に対し「正さなければならない」と感じてしまう自分自身の姿に、次第に違和感を覚えるようになったといいます。そうした葛藤の中で出会った文化人類学は、「ほかでもないこの私」が何に驚き、何に引っかかったのかを大切にし、日常そのものをフィールドとして捉えることを可能にする学問でした。自分が何に違和感を覚えたのかを書き留め、足元を異文化の目で見直すことで、自分の中の「当たり前」や「普通」が相対化されていくと語られました。「違和感」を出発点とし、そうした直感に気づき、問いを立て、言葉にし、考え直す。その自問自答のサイクルを回し続けることが、文化人類学的思考であると解説いただきました。

受講した学生たちは、井上先生が示した「他者を鏡とした自己の見つめ直し」という視点に関心を寄せ、自分自身の考え方や日常を振り返るきっかけを得た様子でした。また、文化人類学が、遠い異文化を知るための学問であるだけでなく、身近な違和感や他者との関わりを通して、自分自身を問い直す学問であることを実感した学生も多く見られました。

■受講した学生の感想(一部抜粋)

  • 今回の講義で、「自分自身が出した答えがずっと同じだとは限らない」という言葉が印象に残りました。私は自分の考え方を変えることが苦手で、自分の考えで自分を縛り付けてしまう場面が多かったように思うので、自分とは異なる考え方や違和感に出会ったときには、その考え方を積極的に取り入れてみたいと思います。自分の考えを大切にしながら同時に多様な考え方も受け入れられるようになりたいと思いました。

  • 「他者を鏡とした自己の見つめ直し」という言葉は、本当にその通りだと思いました。文化人類学で学ぶことは、普段あまり関わったり聞いたことのない国や地域の話から「これって当たり前じゃなかったんだ」と気づいたり、「こんな考え方があったのか」と知り、物事を考え直すきっかけになっています。自分と違う考え方や当たり前の感覚が違ったときに、知ったことで今後どう対応していくかが大事だと思うので、先生が仰っていたように片足を自文化に残しつつ、もう一方の足を未知の世界に突っ込んでみるくらいの感覚で今後も様々な考え方や価値観を学び、自分をアップデートしていきたいと思いました。

  • 井上先生のお話を通じて、文化人類学が「違和感を出発点にして新しい自分と出会う学問」であることを強く実感しました。日常をフィールドとして捉え直す視点や、他者との交流から自己を更新していく姿勢は、私自身の学びにおいても大きな指針となりました。