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研究レポート

独立行政法人日本学術振興会助成研究

『課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業』
(実社会対応プログラム)
「工学・脳科学をエビデンスとした社会的基盤概念と価値の創生」

(2018年10月1日から2022年3月31日まで)

基礎・教養教育センター

岡田 大助 准教授

博士(文学)


本研究は、人が自律ロボットを使用しているときの主体の状態に注目し、実際に実験をして主体の状態を観察、考察することで、これまで常識的に理解されてきた近代の主体概念を越えた新たな主体概念を形成し、様々な社会問題の解決に資することを目指しています。

本研究は、脳科学、工学、法学、哲学の4つのグループから成ります。

私の所属する哲学グループは、脳科学や工学グループの自律ロボットを使った実験や考察から導き出される、自律ロボットを使用した際の人間の主体的状態ついての考察を踏まえ、それが常識的な近代の主体概念とどのように異なるのかを検証し、合わせて、現在の社会が構成員の最小単位として前提としている「主体」概念を理論的、文化的、歴史的側面から再検討し、この主体概念を修正することを試みました。

「日本思想」を専門とする私は、まず、日本人が歴史的文化的に継承してきた主体に近い概念に注目し、それを個人的側面(武士道の「卓爾とした独立」→福沢諭吉の「独立」)、共同的側面(和辻哲郎の「間柄」と主体論)、超越的側面(仏教の空・縁起・慈悲と親鸞の超越的主体論)の3者に腑分けし、それぞれの内実を明らかにしました。

次に、日本人における責任の主体の個人的・連続的な側面を明らかにするために、日本人の霊魂観を通史的に検討することで、日本人は仏教の業報思想の影響のもと、生前死後を貫く霊魂のようなものがあると観念し、それが、近世に脱仏教化した平田篤胤の霊魂観や柳田国男の霊魂観、さらには現代人の常識まで連続していることを明らかにしました。

他方、同じ仏教からの縁起説の影響の下、日本人は責任の主体を共同的・非独立的な側面を合わせ持つものと捉えており、主体の個人的側面と共同的側面とは絶えざる緊張関係にありました。このような、主体の両義的側面については、親鸞が主著『教行信証』で取り上げた『涅槃経』の阿闍世救済の物語と三願転入説のなかに、すでに両者の葛藤と一つの解決案が提示されていることを明らかにしました。