海外研修
海外専門研修

香港文化人類学専門研修

2016 年度

海外専門研修(文化人類学・香港)

(学生 5 名+引率教員 1 名) 6 名

行程月/日地名時刻交通機関スケジュール
19 月 1 日(木)成田発
香港着
18 : 35
22 : 25
CX0505
地下鉄
成田空港集合、キャセイパシフィック航空で香港空港着。
夜 香港市内フィールドワーク
29 月 2 日(金)香港終 日地下鉄
路線バス
徒歩
香港市内フィールドワーク。
斗鬼ゼミ卒業生の「香港人」周浩宜氏から話を聞く。
39 月 3 日(土)香港終 日地下鉄
路線バス
徒歩
終日 香港市内フィールドワーク
49 月 4 日(日)香港終 日地下鉄
路線バス
徒歩
終日 香港市内フィールドワーク
59 月 5 日(月)香港発
成田着
10 : 30
15 : 55
地下鉄
CX0520
午前 香港市内フィールドワーク、
香港空港発 キャセイパシフィック航空で成田空港着、解散

中国系香港上海銀行も風水ビル

世界唯一の二階建市電が走る英国植民地支配の拠点 Central 地区

死後も超過密のお墓マンション

エスカレーターは英国式の左空け

親中国か自治か。香港立法會選挙。

今や珍しいレトロな飲茶レストラン

周先輩と屋台料理

引率教員 斗鬼 正一 教授

2016 年、リオデジャネイロオリンピックが世界を沸かせたが、そのオリンピックに香港は 38 名の選手団を派遣、9 種目に出場した。2012 年ロンドンオリンピックでは女子自転車競技で銅メダル、2004 年アテネオリンピックでも男子卓球で銀メダルを獲得している。
などと書くと、香港って中国だろう?と首をかしげる学生諸君も多いだろう。香港は国ではない。でも実は、よくニュースに出てくる「 リオデジャネイロオリンピックには206 の国と地域が参加」という「地域」に当たるのだ。
香港は正式には「 中華人民共和國香港特別行政區」。国でもなければただの都市でもない、特別な街だ。何しろオリンピック選手団どころか、独自の憲法にあたる「 香港特別行政區基本法」 を持ち、立法も、司法も、行政も、中華人民共和国とは別制度。そして人々の多くは「 香港人」 という独自のアイデンティティを誇っている。
ますます混乱してきたかもしれないが、実は香港は 1997 年まで 155 年間英国だった。つまり 1842 年、アヘン戦争をしかけた英国が中国から香港島を「永久割譲」、1898 年には新海地区を 99 年間 「租借」 して召し上げ、支配してきた 「大英帝國直轄植民地」 だったのだ。だから人々も中華民国民、中華人民共和国民ではなく、British National Overseas(「英國海外属領公民」)だったのだ。
1997 年に条約の期限が切れ、中華人民共和国に返還されたのだが、その際「 中英共同声明」によって「 香港特別行政區基本法」 が制定され、「一國両制」(一国二制度)、つまり以後半世紀間これまでの制度、社会の仕組みをほぼそのまま維持することが取り決められた。
この「 一國両制」 は、むろん法律だけではない。「香港人」 の多くは「 華人」 だから、中国文化を身に付け、それで生活している。しかし、英国人の持ち込んだ英国文化にも大きく影響され、英国式の紅茶、競馬から、二階建てのロンドンバスまで、日常生活のいろんな面で、中国と英国の文化が共存している。お寺の隣に英国式パブが並び、葬儀店には中国式と英国式の棺桶が並ぶ。まさにチャンポン、多文化社会だ。
言葉も同様に、家族の会話は中国語(広東語)でも、教育制度は英国式で、学校も幼稚園から中学、高校まで、英文、中文2種類あり、「英文幼稚園」 なら授業も英語。だから大学生となるとたいてい英語に不自由しないし、地下鉄の車内放送から飲食店のメニュー、看板まで、たいてい中英語併用。だから香港人同士の会話が広東語、英語チャンポンだったりする。
そして何より、自らのアイデンティティを確認し表現する上で重要なはずの姓名でさえチャンポンの人も多い。日本で有名な香港人、アグネス・チャン、ジャッキー・チェンも、本名は陳美齢と陳港生で、どちらも姓は中国名「陳」さんのままだが、名はアグネスもジャッキーも英語名という中英チャンポン姓名なのだ。
おまけに香港は、英国植民地の上に国際貿易港、国際金融都市でもあるから、インド、パキスタンなど英連邦諸国出身の人々をはじめ、世界中の多様な民族が暮らしている。だから、お寺の隣はイスラムモスクといったチャンポン。つまり香港はきわめて文化の多様性が高く、異質が共存する、まさに多文化社会というわけだ。
そうだ 多文化社会の大先輩から、学ぼう。
そんなチャンポン都市香港に、今年も「 現代社会学科文化人類学海外専門研修」 で 5 名を引率した。それはもちろん私が香港に魅せられて 30 数年、長年の調査地で、世界で一番好きな都市だからなのだが、参加者には、いや日本人には、この街から学ぶことがきわめて多いからでもある。
日本は人口がどんどん減って縮んでいく。もしこれからも経済大国であろうとするならば、国際化、グローバル化は不可避だろう。難民、移民も大勢受け入れることになるかもしれない。ところが現実の日本は、ほとんどが同じ顔をして同じ言葉を話し、同じものを食べる人たちばかり。世界でもきわめて珍しい単一民族に近い社会だ。
国際化、グローバル化が進むということは、日常生活、身の回りに、文化が異なる人々がいるのが当たり前ということだ。そうした多文化社会で一番困難で、大きな問題を生じるのは、実は言葉よりも文化の違いだ。何しろそれぞれの文化は、風俗習慣の違いどころか、価値観から知覚までも決定づけるから、文化が異なるということは、日常生活あらゆる場面で問題が生じる。言葉は学習すれば、自動翻訳機を使えば、何とかなるとしても、たとえば他の民族の食文化が汚い、気持ち悪いなどと感じてしまうことは、理屈ではなく、半ば生理的なものだから、実に厄介だ。
そして日本では、これまでそうした異民族、異文化が身近に存在し、角突き合わせる多文化社会という状況、経験はほとんどなかったのだ。他方で香港は、この道の大先輩。今も「 一國両制」 という壮大な実験を続けている。だから私たちが香港から学べること、学ばなければいけないことはたくさんある。
そんな香港に、香港人卒業生、周浩宜さんがいるのが斗鬼ゼミだ。今回もそんな「 本物の香港人の先輩」 が、路地裏の地元の人しか行かない飲茶レストランや屋台に同行してくれた。文化人類学のフィールドワークは観光客目線では全くだめなのだが、何しろ同行が香港人の先輩だから、あくまで現地目線。おまけに何でも教えてくれる。これは最高の文化人類学的フィールドワークだ。
チャンポン都市を裏から斜めから、地元目線で体験できた今回のフィールドワークは、これから激動、激変のグローバル化時代、多文化社会を生きていかなければならない若者たちにとって、かけがえのない体験になるに違いないのだ。
そうだ 香港、行こう。
2016 年、爆買いで沸かせたのは中国人だ。年間訪日 637 万人。ダントツ 1 位だから、銀座も難波も天神も、そして北海道の無人駅までも、中国人で溢れるのももっともだ。2 位韓国 509 万人、3 位は台湾 417 万人、そして 5 位はアメリカで 124 万人なのだが、そのアメリカを上回り、堂々 4 位 184 万人というのが、実は香港人だ。中国は人口 13 億 6782 万人 アメリカは 3 億 1905 万人、対して香港はたったの 734 万人。東京都の半分だから、4 人に 1 人が訪日という計算だ。何しろあの周先輩も、この半年間に 4 回も日本に来ている。そのくらい日本大好き香港人は多いのだ。
それなのに、多くの日本人の香港への知識、関心は、シッピング天国、グルメ天国といったレベル。激動の時代を生き抜く知恵をたくさん教えてくれる大先輩なのに、こんなにもったいないことは無い。身近に異質な人々、文化が溢れる近未来を生き、グローバル化対応人材たることが求められる大学生は、やっぱり「 そうだ香港、行こう。」なのだ。