江戸川大学では、3年次に所属したゼミナールで専門研究を行い、4年次には卒業論文を執筆します。各ゼミの指導教員は卒業論文のうち優秀な論文を優秀論文として推薦します。優秀論文発表会では、優秀論文を執筆した学生がプレゼンテーションを行い、最も優秀な論文が選考されます。

2019年度 優秀論文

最優秀論文 木村 美優さん
「アナログ表象は本当に存在するのか --色の濃さの再認に対する命題化阻害の影響について--」


<論文概要>
本研究は、脳内の情報処理形態である,表象について、命題化されないアナログ表象が存在するか否かを検討したものです。命題化が困難と考えられる色の濃さの再認課題を作成し、かつ、命題化を阻害する課題を,記銘刺激の呈示前(ワーキングメモリ課題)あるいは、呈示後(計算課題)に挿入し、再認課題成績を比較しました。その結果、記銘刺激の呈示前に課題が挿入された場合は色の濃さの再認成績が上昇しアナログ表象での情報保持の優位性が明らかにされました。

<選考のポイント>
古典的な記憶課題をベースに新たな課題を作成した挑戦的な研究手法、イメージ論争に結論が出るように練られた精緻な研究計画、結果からアナログ表象での情報処理の優位性に言及する考察、これらが高く評価されました。また、研究内容を分かりやすく伝えたプレゼンテーションの技術も素晴らしく、優秀卒論発表会では、研究内容及びプレゼンテーションについて、最高得点を得ました。

「アナログ表象は本当に存在するのか ―色の濃さの再認に対する命題化阻害の影響について―」(要約)

二位 梶原 真優さん
「断眠による眠気が顔刺激処理に与える影響 -顔ストループテストを用いた検討-」


<論文概要>
この研究では、顔画像情報と名前文字情報に対する眠気の影響を実験的に比較しています。徹夜中と通常睡眠後に、顔画像に重ねて名前を文字で表記した刺激を参加者に呈示し、指示された情報(画像/文字)に基づく人物のカテゴリ(俳優/教員)判断を求めました。その結果、名前の文字情報に基づく判断は徹夜中に障害される一方で、顔画像情報に基づいた判断は徹夜の影響を受けておらず、顔画像の処理は比較的眠気に強い認知機能であることが示唆されました。

<選考のポイント>
現実に存在しうる眠い状態で作業をせざるを得ない状況を想定し、「眠気の影響を受けづらい認知機能は何か?」について、この研究は検討しています。選考においては、そのオリジナリティが高く評価されたように思います。また聴衆に理解しやすく伝えた発表者のプレゼンテーション技術も高いレベルにあるといえます。

「断眠による眠気が顔刺激処理に与える影響 -顔ストループテストを用いた検討-」(要約)

三位 岡島 七海さん
「色彩認知の言語的相対論(Whorf仮説)の右視野優位性が性により異なるのか」


<論文概要>
虹の色を7色と表現する民族も5色と表現する民族もいます。このような言語表現の違いが人の認知に影響を与えるというのが言語的相対論です。言語中枢は左の脳にあり、左の脳は右視野からの情報を受けているので、右視野からの情報はより強く言語の影響を受けるという先行研究があります。また、言語機能の左半球への局在は男性でより強いとも言われています。岡島さんの卒業研究は、言語による認知への影響が左右視野で異なるのか、また、左右視野の差は男女で異なるのかという問題について実験的に検討を行い、興味深い結果を得ました。

<選考のポイント>
衝動性、意欲低下、適応感の3変数の関連性にアプローチした先行研究を丹念に概観し、そこで提起された因果モデルの矛盾先行研究の複数の問題点を指摘し、それらを改善した実験プロトコルを用いて研究を行いました。先行研究のプロトコルを地道に一つ一つ改善していった真摯な研究姿勢や興味深い研究成果も評価されましたが、分かりやすいプレゼンテーションの内容や岡島さんの積極的な発表姿勢も高く評価されたと思われます。

「色彩認知の言語的相対論(Whorf仮説)の右視野優位性が性により異なるのか」(要約)