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小林先生と北原先生

―特集 第一回―

今、目覚める
日本スポーツビジネスの未来


江戸川大学男子バスケットボール部監督である北原憲彦先生と、ソフトバンクホークス取締役である小林至先生による対談が実現。日本人の生活に深く根ざしたスポーツをビジネスの視点で捉えたとき、今後どんな可能性があるのか。 元スポーツプレーヤーで海外のスポーツビジネスに詳しい、江戸川大学が誇る二人の先生にお話しをお聞きしました

立ち遅れた日本のスポーツビジネス

――日本のスポーツビジネスの現状と将来展望についてお二人の見解をお聞かせください。
北原 日本人のスポーツ人口が増え、競技だけでなく健康のためにフィットネスクラブなどに通う人もとても多くなりました。また1980年代以降はスポーツを「やる人」と「観る人」の数が逆転したと言われています。競技場観戦、テレビ観戦を含めてスポーツをまったく観ない人の方が少ないでしょう。それくらいスポーツは暮らしと密接に関わりあっているわけですから、さまざまなニーズが生まれ、ビジネスが形成されるのは当然のことです。ただ、日本のこれまでのスポーツビジネスは欧米に比べてあまり活況ではなかったかもしれません。
小林 これまで、あまり経済や経営など学問の一環として取り上げられてこなかったのも、その一因でしょう。球場をつくったり、球団を招致したりするのは、まさに公共投資の話で経済学の良い題材になるのですが、スポーツという名前のせいか、これまではマーケティングや体育学の観点でしか考えてこなかった。


NBA解説中

[NBA解説中の北原先生]

小林至助教授

Profile
元プロ野球千葉ロッテマリーンズ
ソフトバンクホークス取締役

小林 至 助教授

かつて史上3人目の東大卒プロ野球選手として話題に。退団後渡米し、コロンビア大学で経営学修士号を取得。帰国後は、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどで幅広く活躍。スポーツビジネス・コース担当教員。

プロスポーツの真価はファンの満足度

北原 欧米のような選手の代理人ビジネスもまだ浸透していませんね。2002年にプロ野球巨人軍の松井秀喜選手が、FA*権を行使してメジャーリーグへ移籍希望する際、代理人がいなかったため本人が英語の辞書片手に身分照会文書をつくった話は有名です。私もNBA*選手の代理交渉を行うアメリカのエージェントを知っていますが、代理人契約のエキスパートとして高い専門性をもっています。欧米の多くのプロスポーツには代理人ビジネスが介在しますし、欧州のプロサッカーリーグの選手移籍契約などは莫大な資金が動くビッグビジネスです。
小林 やはり日本では、ビジネスとしての観点が欠けていたんですね。その点でもう一つ言うと、球団や競技団体の経営努力も足りませんねぇ。特にファンサービスの質はもっと高めるべきですよ。プロ野球やJリーグでも競技場が主要駅からずいぶん離れていたり、駐車場が無かったりアクセスがとても悪い所がありますよね。ファン軽視と言われても仕方がない。私はスポーツビジネスの基本は良質なスポーツエンターテインメントを創造することだと思いますが、今の状況はまだ程遠いですね。
北原 アメリカのプロスポーツビジネスは非常に細分化されています。興業を魅力的なエンターテインメントにすることを命題にきめ細かなサービスを専門業者が担っています。たとえば、大リーグは人気が落ちてくると、インターリーグ〈1〉を導入したり、プレーオフ進出〈2〉の球団数も増やすなど、矢継ぎ早に新機軸を打ち出した。また、NFL*やNBA*は球団の経営が圧迫されないように、サラリーキャップ〈3〉を導入しています。こうしたビジネススタンスは見習うべきでしょうね。

※FA「Free Agent」 ※NBA「National Basketball Association」 ※NFL「National Football League」

企業スポーツからの脱却へ

小林 日本のスポーツ界はこれまで企業に頼る形で展開してきました。その代表が「実業団」です。高度経済成長期以降、多くの企業がさまざまな競技のチームや選手を自社で抱え、スポーツ活動をサポートしてきました。企業が実業団をもつメリットはイメージアップであり、また経営者のステータスです。コストもかかりますが日本経済が急成長していた時代ですから企業にとってさほどの負担ではなく、むしろスポーツ支援を通した社会文化貢献をアピールする格好の材料だったのです。
北原 ええ。私も現役時代は実業団チームに所属しましたが、日本リーグでプレーしている選手のほとんどが、その会社(チーム)の社員でした。高校や大学まで活躍した有能な選手は実業団に入ることで企業から競技の活動環境を与えられ選手生活を続行できる。世界的に見ても例のない日本独特のものですね。
小林 この企業スポーツの仕組みが日本のスポーツ振興に大いに貢献してきたわけです。ところがバブル崩壊とその後の不振のなかで、多くの企業が、コストに対して非常に敏感になりまして、スポーツチームが切り離されてしまいました。となると、各スポーツ団体、チームが生き延びて行くには、自分でやるしかない。つまり、否が応でも、経営の観点で物事を考えるしかない。
北原 私もそう思います。そういう意味では日本のスポーツビジネスは今まさに過渡期にあると言えますね。小林先生は今後のスポーツビジネスのどの辺に注目していますか。

北原憲彦教授

Profile
元バスケットボール全日本代表/元女子全日本監督

北原 憲彦 教授

明治大学卒業後、1年の留学を経て1978年実業団NKKに入社。10年間、日本最高のセンタープレーヤーとして数々のタイトルを獲得。引退後は女子ナショナルチームの監督も務め手腕を発揮。現在TV放送等のNBA解説者。スポーツビジネス・コース担当教員。


研究室の北原先生

[研究室の北原先生]

ビジネス感覚を磨くことがリーダーの条件

小林 テレビと組んでの全国戦略、ひいては国際戦略〈4〉も重要ですが、まずは、地域での足場固めが重要になるでしょう。それには、地域住民、地域企業、自治体の協力が不可欠ですが、これを成し遂げるには、文化として愛してもらう努力をする一方で、現実的な金銭のやり繰りが必要になるなど、やはり複合的な経営感覚が必要になります。わが国は優れた経営者を数多く輩出し、それが日本の繁栄につながったわけで、スポーツの世界でも、そういう人が出てこないといけませんね。
北原 われわれも多くの学生にスポーツビジネスの現状とこれからの可能性を感じてもらえるような授業をしていかなければなりませんね。それが彼らが活躍する道の第一歩になればうれしい。

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