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研究レポート

国立研究開発法人科学技術振興機構委託研究のご紹介

戦略的創造研究推進事業
研究課題「自律機械と市民をつなぐ責任概念の策定」(研究代表者 松浦和也)
研究題目「日本の仏教思想と武士道における「所有」」(研究担当者 岡田大助)

(平成29年10月1日から平成31年3月31日まで)

基礎・教養教育センター

岡田 大助 准教授

博士(文学)


私が研究分担者として参加することになった「自律機械と市民をつなぐ責任概念の策定」というプロジェクトは、近い未来に、あるいはすでに一部実現している自律機械(いわゆる人工知能を備えた機械)の出現を踏まえ、それらと市民とをつなぐ新たな責任概念を作り上げることを目標としています。

このプロジェクトの達成目標は、自律機械を社会実装した際に想定される市民からの疑念を提示した上で、それに答えて市民の自律機械に対する理解を促進し、さらに、今後の責任概念のあるべきあり方を提言することです。
研究は、情報技術チーム、社会制度チーム、哲学チームに分かれ、共同して行います。期間は 3 年半にわたる予定ですが、本年度は、所有の問題を扱います。

私が所属する哲学チームは、それぞれの専門分野における「所有」概念に関する文献学的調査を行う予定です。
私は、日本の仏教思想や武士道を研究する立場から、「日本の仏教思想と武士道における「所有」」について検討し、日本の一般的な市民が伝統的に持っている所有についての考え方の一端を明らかにしたいと思います。
さしあたり、所有を、誰かが何かを持ちその状態を持続することと定義しておきます。まず、仏教思想から見ると、所有はそもそも成り立たちません。仏教の縁起という考え方に照らすならば、所有する者もされる物も、一時的に何かが依りあって仮にできているものに過ぎず、固定的に持続する実体があるわけではないからです。

ところで、武士道の担い手である武士は、戦闘を生業とし、自らの実力によって所領を維持・拡大することを目的としていました。その限り、所有を肯定し、それを求めていたといえます。他方、武士は、上記の仏教思想によって所有への欲求を否定し、相対化していました。武士は、所有に対して矛盾する両義的な立場を取っていたのです。そして、このような考え方は、所有を素朴に肯定しながらも、どこかでそれに醒めている今日の多くの日本人の考え方に通じているように見えます。

この研究では、武士の所有についての両義的な考え方を、代表的な武士道書『甲陽軍鑑』および『葉隠』の文献調査、思想内容の解釈を通して明らかにすることで、日本の一般的な市民が伝統的に持っている所有についての考え方の一端を明らかにしたいと思います。